No.21: 部下から見えるあなたは権力ですか、権威ですか?

 「上司が部下を理解するのには3年かかるが、部下は上司を3日で見抜く」ということを聞いたことがあるのではないでしょうか。私も、企業の中で働いてきた人間として、上司として部下を持つ立場も、部下として上司を持つ立場も両方経験しているので、”3”という数字の妥当性はともかく、それぞれの方向からの感度、理解度の違いは実感しています。

 私自身、多くの上司の下で仕事をしてきましたが、振り返ると尊敬できる上司とできない上司とは明確に分かれた気がします。あらためて両者の違いはどこにあるのだろうと考えてみると、”一本本質的な筋が通っていてブレない”ということに思い至ります。

 もちろん人間性も尊敬できるかできないかの要因になってきそうですが、ビジネス上の関係なので多少性格に難があったとしても、仕事を進める上での”筋”の方が何を置いても大事だということです。

 かつ、この”筋”は必ずしも私から見て、あるいは第三者から見て賛同できるものである必要はありません。私に違う意見がある場合は、遠慮なく進言、提案をします。それを徹底的に議論した上で、上司自身がその”筋”を貫き通す信念を持ち、最後まで責任を持つ限りにおいて、組織の一員としてそれに沿ったアクションを実行していくのが下の者の役割です。大切なのは、いろいろな意見を聞いた上で、それでもブレずに進められるかということです。

 一方、残念ながら何度かお付き合いしたことのある尊敬できない上司というのは、この一本の”筋”が感じられず、上司自身の上司から云われたことに従っているだけなので、上位者からの指示により簡単に考えがブレる、ということを繰り返します。そして、典型的官僚組織においてはこの様に上位者の言うことによく従う人間が引き上げられていくのです。

 この様な人間は、権力に弱いので上位者の言うことは絶対なものとして盲従し、一方部下に対しては同様に自分の言うことに従うべきだと考えています。自分はそういう権力を持っている立場だと信じているわけです。

 一見、この様な組織は平常時には順調に機能している様に見えます。しかし、いざ問題が発生した非常時になると、上位者の指示を待ちその指示を伝達するだけになります。自分は決断できるということを周囲に見せたくて行動しますが、後で上位者からの指摘等により簡単に覆します。いわゆる自分の”筋”を持っていない上司は、部下に見抜かれ、決して信頼されません。長期的には全員が同じ方向を向いて事業を推進する組織になりようがありません。

 この対局にある上司は、自分の立場は部下に命令を下せるものであっても、決して権力を前面に出して行うのではなく、自分の考えを相手に理解させて納得させて部下に行動を促します。”権力“ではなく、そこには自然に出来上がってきた”権威”が感じられます。この様な上司に率いられた組織は、上司のブレない方針に沿って全員が同じ方向に推進する生産性の高いものとなります。

 他人に与えられた権力を使ってではなく、自分自身が磨き上げた権威を活かして部下及び組織を運営していきたいものです。