No.24: なぜ同じ失敗が繰り返されるのか?
プロジェクトの失敗、トラブル事例はそれぞれの企業においてそれなりに蓄積共有され、再発防止教育に活用されているものと思います。しかし、再発防止策が浸透されていれば未然に防止できたはずの類似のトラブルが、組織内で繰り返されるのをよく見ます。これはなぜでしょうか?
あるプロジェクトが炎上し、大赤字を招く、外部からの応援を必要として組織運営に影響を与える、顧客の信用を失う、といった結果に至った場合、多くの組織ではかなりの時間を費やして反省会を実施し、当該プロジェクトで何が起こったのか原因を深掘りし、さらに議論を繰り返して再発防止策を練り上げる、という様なことを行うでしょう。それなりに成熟した組織であれば、決して問題の犯人探しや責任追求に注力しまうのではなく、本質的な原因にフォーカスしたアプローチをとっているものと思います。そして、それらを組織内に教訓として浸透させるべく、勉強会を開催したり、チェックリストを作ったりして次回以降のプロジェクトに適用させていこうとするでしょう。
ところが実際の現場では、そういった再発防止活動にも関わらず、人を変えて同じことが繰り返される状況を見てきました。あの時のあの教訓が生かされていれば、こんな事態にはならなかったのに。このチェックリスト通りにチェックしていれば、事前に回避できたのに。と管理者、特に経営層の抱く痛恨の思いは察して余りあるところです。
人を変えて同じ失敗が繰り返されるのは、事例を聞いても一時的に理解はするが次の日には忘れてしまう、自分はその様な失敗は起こさないという過信を持つ、運用に追加されたチェックリストを見てはいるが形骸化してしまう、ということによるのでしょう。その根底には、他者の事例を自分ごととして捉えられていないことがあります。
“自分ごととして捉える”という観点では、私たちには世の中の悲しいニュースに触れるにつけ、それが自分の身に起きてしまったらというように感情移入するケースはあります。そして同じ目に遭わないように気をつけようと思います。それでも、例えば詐欺事件の事例を聞いて自分は大丈夫と思っている人に限って、同様な詐欺被害に遭ってしまったという例も耳にします。自戒も込めて云うと、私たちは自分自身が同じ目に合わないと、心底気をつけようということにならないと思った方が良いかも知れません。
企業に所属していた時の話です。組織内のある部署Aでプロジェクトにトラブルが発生し、他部署を巻き込んだ対策本部を立ち上げたうえで数ヶ月を要して終息に至りました。当然の如く、当該事例は下級的速やかに組織内の管理者向けに、経営層からすれば同様なことを発生させないことを期待しミーティングで紹介されました。ところが、その数ヶ月後、別な部署Bのプロジェクトで類似のトラブルを発生させてしまいました。先行事例と全く同じ状況ではありませんでしたが、先行事例から得られた問題の根本原因、いわゆる動機的原因に意識があれば、回避できたトラブルだったと云えるものです。
組織の経営層からは、部署Bの管理者に対し“自分の組織でも起こりうることだと自分ごととして捉えていないからだ”という尤もらしい叱責がありました。部署Bの管理者も、先行事例を自部署内にタイムリーに紹介し注意喚起はしていたのです。
しかし、そういう経営層の直轄で動かしていたプロジェクトでも、その数ヶ月後にトラブルを発生させてしまったのです。原因を深掘りすれば先行事例と同じところに行き着くものであったのです。結局、笑い話になりかねませんが、経営層も自分ごととして捉えられてはいなかったということになってしまいます。
残念ながら、組織内のひとりひとりが自分でトラブルを経験しないと、全員が自分ごととは身に染みて実感できない、ということになるのかも知れません。それでは、何の解決にもなりませんね。
そこで私からの提案は、私たちは他者の失敗事例を心底から自分ごととして捉えることはできないということを前提に、自分ごととして捉えられる人材、つまり過去に失敗を経験したことのあるその人を第三者的にすべてのプロジェクトを俯瞰してもらう立場で配置するということです。これが、私が進めている”プロジェクトメンター”の目的の一つです。是非いろいろな企業で試していただきたい体制です。