No.25: 情報は階層を経るごとに劣化する

 前回、他者の失敗事例を心底から自分ごととして捉えることは、口で云うほど簡単ではないことをお話ししました。これは、失敗事例に限りません。組織を運営するなら、日常の伝達事項、周知しておきたい連絡事項は、思ったほど組織内の隅々まで徹底されない、ということを認識する必要があります。

 大きくなった組織は、通常階層構造を有しています。組織によって異なるものの、例えば企業でいえば代表取締役を含めた取締役会を最上位に、事業部、本部、部、課、及び係という様な階層で構成されているかも知れません。

 この階層間で伝達される項目は、取締役会で承認された会社の経営方針の様な中長期に渡って認識されなければならないものから、総務部門からの短期的日常的な連絡事項まで様々です。これらの重要度、緊急度が異なる情報は、組織内にどの様に伝達されているでしょうか。

 現在ほど組織内のIT化が進んでいなかった時期は、ひたすら階層間の口頭または書面での伝達に依存していました。つまり、前述の階層例を前提とすれば、最長で事業部から各本部の本部長へ、本部から各部の部長へ、部から各課の課長へ、そして課から各係の係長へ、というように多段階で伝達が行われます。

 私がお話を伺ったことのある社長さんの感触では、一つの階層を経由するごとに伝達される情報は6割に減ると云っていました。6割の意味は、ひとりひとりに平均6割の情報しか伝わらないということか、全体の6割の人間にしか正確に伝わらないということかわかりませんが、おそらく両方を含めてでしょう。つまり、上記の階層例では、情報は組織の末端まで届いた時に0.6の4乗すなわち約0.13、13%まで抜け落ちてしまう、劣化してしまうということになります。現実にこの割合がどうかはともかく、いずれにしても情報が各段階で劣化していくのは確かなので、確実に情報を伝達するため、あるいは伝達の効率化のため、フラットな形で連絡の機会を設けている組織もあるでしょう。部長が部内の全員を集めて伝達する、という様なことです。

 IT化が進んだ現在は、イントラネット上に組織内のWeb等による掲示板が構築され、連絡事項の類は全員がそこを参照することにしている組織も多いと思います。しかし、組織内の全員が漏れなく参照し、認識しているかは当然のごとくわかりません。ひとりひとりの自主性だけに頼らず、何らかの外部からの働きかけは必要に違いありません。

 つまり、組織を運営する場合、組織の隅々まで情報を然るべき鮮度で行き渡らせるには、相当な仕組みと努力がいるということを、認識しなければなりません。人によって情報の受け取り方、理解の仕方は異なることを前提に、読ませる、聞かせる、繰り返す、という様な異なるルートでの展開も工夫する必要があります。

 これは企業の様な大きな組織だけの話ではなく、一つのプロジェクトを対象にしても同じことです。メンバが数名で構成されているプロジェクトは別にして、体制が10名を超えてくると、何らかの階層が生じます。プロジェクトマネージャ(PM)は、これらの階層間で、如何に情報を確実に共有し徹底するか、プロジェクトの計画段階で具体的な仕組みを定めておく必要があるのです。

 これを疎かにすると、順調に進んでいたと思っていたプロジェクトにおいて終盤に齟齬が見つかり、大きな後戻りが発生するという様なことが起こりえます。PMや管理者は、プロジェクトのOUTPUTの品質はINPUTの品質以上のものにはならないということを肝に命じる必要があります。

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