No.62: 結局最後は実行するかどうか|プロジェクトマネージメントのあるべき姿

 ある程度規模の大きくなった企業、数多くのプロジェクトを経験してきた企業であれば、それまでの経験や事業主からの指導を受けるなどして自社としてのプロジェクト管理規準を作り上げ、さらに過去のトラブルから得られた教訓を蓄積し財産として、次のプロジェクトに活かせる様にしているものと思います。それらの蓄積した財産に沿ってプロジェクトを運営すればそんなにトラブルを引き起こすことはないはずなのに、それでもしばしばトラブルに見舞われてしまうのはなぜでしょうか。

 それは、いくら立派な管理規準や教訓がそこにあっても、結局それらを実行できるかどうか次第だからです。実行できなければ管理規準や教訓は絵に描いた餅に過ぎません。

 試しにあなたの企業において、プロジェクトのメンバに、プロジェクトの管理規準に一通り目を通したことがあるかどうか、蓄積されている教訓集といったものを一読し内容を理解しているか確認してみてください。

 ほとんど、とは言いませんが多くのメンバは、管理規準など見ずに仕事をしている、下手をすれば管理規準がどこにあるかも知らずに仕事をしているということがあります。また、教訓集が存在していることも知らない、知っていても中身を読み込んで自分のものとしているメンバが少ないのが実態ではないでしょうか。

 「いや、そんなことはない、うちではプロジェクトに関わる全員が管理規準をしっかり理解しているし、教訓も浸透している」という経営者がいれば、ほとんどのプロジェクトが成功し、トラブルの発生を回避して順調に業績を伸ばしていることでしょう。

 しかしながら、経営者の期待とは裏腹に、管理規準をよく知らないままプロジェクトを進めている、蓄積された教訓を理解せずに同じ失敗を繰り返してしまう、というのが私の見てきた光景です。特に企業の規模が大きく、重厚な管理規準が存在していると、その全貌を掌握するというのは、PMO等の支援部門であれば別ですが、現場のメンバにとっては至難の技と言えます。

 管理規準を作り上げたからこれに従って管理すればプロジェクトをうまく管理していけるはずだ、教訓集を作成して紹介したから同じ失敗を繰り返さずにプロジェクトを進めていけるはずだ、というのは経営者の妄想に過ぎません。そういったものを作成したことは、ほんの入り口に立った段階に過ぎず、それを現場の末端まで浸透させていくには、その後予想以上に労力と時間を要するのです。

 プロジェクトマネージャー(PM)は目の前のプロジェクトを前に進めることで頭が一杯で、逐一あらためて管理規準に目を通しながらそれに沿って業務を進めるなんて余裕はありません。例えれば、取扱説明書を読み込まずに一部だけ拾い読みして電化製品を使い出し、後からこんなこともできたんだと役立つ機能の存在に気が付く様なこともあります。

 もちろん管理規準や教訓の勘所を押さえて、プロジェクトを成功に導くPMもいるでしょう。しかしその様なPMだけではありません。PMとなる人材の一人一人が管理規準の要諦と教訓の本質なところを腹落ちする状況となるには、繰り返し教育の機会やプロジェクトの実体験を必要とします。つまりどうしても期間を要します。

 では、その過程段階におけるPMの、目の前にあるプロジェクトをどうするか。プロジェクトの成功とPMの教育を両立させて進めなければなりません。そこに、第三者の立場でPMの進め方を俯瞰し、適切にアドバイスしながらPMを成長させる人材の存在が必要なのです。そうです。プロジェクトメンターです。

 あなたの企業では、管理規準や教訓の浸透にどの様な施策を打っていますか?単に規準や教訓集を読んでおけ、で当人任せに終わってはいないでしょうか?

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