No.75: 立ち止まる勇気があるか|プロジェクトマネージメントのあるべき姿

 プロジェクトを進めている途中で何かおかしい…と感じ始め、そのうち違和感の原因が顕在化し、日々刻々事態が悪化していく…。それは、いわゆる”デスマーチ”への入り口かも知れません。そんな時あなたの組織では、一度立ち止まってみる、ということができるでしょうか。

 それまで順調に進んでいた様に見えた開発プロジェクトで、検証フェーズに入った途端予想をはるかに超える欠陥が見つかったという様な事態であれば、そこで一旦検証作業をストップし、上流工程の設計や制作作業に立ち戻って、欠陥の根本的・共通的原因を追求し必要な作業をやり直す、という判断もしやすいでしょう。

 しかしながら、徐々に状況が悪化していくプロジェクトを一旦ストップするというのはそのタイミングを掴むのが難しく、かつ勇気がいるものです。

 それは、茹でガエルの寓話を思い起こしてみればわかります。いきなり熱湯に放り込まれればカエルはその熱さに驚いて飛び出しますが、ぬるま湯から徐々に温度が上がっていくと気がつかずに茹で上がって死んでしまうというものです。

 上記の科学的根拠は不明ですが、事態が徐々に悪化していく過程においては、どこまで行ってしまったら立ち止まる、という判断がしにくいのは容易に想像できるでしょう。

 プロジェクトマネージャ(PM)自身も、プロジェクトを期限までに完遂させる責務を負っているので、自分から立ち止まるという判断はしにくいものです。このまま走りながら立ち直せるという根拠のない期待で走り続けてしまいがちです。

 自分の足元を冷静に分析し、ここは一旦立ち止まってやり方を見直した方が良い、計画の変更をプロジェクトオーナーや経営者に説明し納得してもらおうということができるPMがいれば、それは優秀なPMに違いありません。

 しかし、その様なPMは極めて稀でしょう。自分が進めて混乱させたプロジェクトを、自分で終息させられる修正力、経営者を納得させられる胆力が必要です。そして残念ながら、うまく進められなかったPMに継続してプロジェクトを任せるという判断を下せる組織も極めて稀であるに違いありません。

 そして組織自体においても、顧客やプロジェクトオーナーと約束した期限やコストを優先しようとするあまり、プロジェクト状況に関する悪い報告を受けても、現場で実際に起きていることを把握しようとせずにそのまま走り続けさせるということが起きます。

 プロジェクトの目的の達成よりも組織としての業績や評価を優先させる管理者には、プロジェクトを立ち止まらせるのはかなり勇気がいることです。

 この様な時は、プロジェクトや組織の業績に直接責任を持たない第三者の存在が役立ちます。プロジェクトの状況や組織を俯瞰することができ、全体最適の観点から事態を冷静に分析し、客観的な事実と対応策を経営陣に直接提言できる存在です。

 PMが惰性で走り続ける状況や、組織が優先度の判断を間違えてしまう状況に陥るのを防ぐために、そういった第三者の仕組みがあるか、必要がないか、考えてみてください。

 あなたの組織では、いざとなったらプロジェクトを立ち止まらせることができるでしょうか。あなた自身は、プロジェクトを立ち止まらせる勇気を持てますか。

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