No.76: プロジェクト成功の定義|プロジェクトマネージメントのあるべき姿

 プロジェクトは、何を持って成功と言えるのでしょうか。計画通りの品質を確保したうえで完了期限を守り、コストも計画以下に抑えられた。これは一見するとプロジェクトが成功した様に見えます。狭義的にはその通りでしょう。しかし、広義的にはどうでしょうか。

 そもそも、そのプロジェクトが目的とするものは何だったのでしょうか。

 開発プロジェクトにおいて完成した開発物のことを言っているのではありません。プロジェクトによって完成したものによって、何を実現しようとしていたのかということです。

 プロジェクトというものは企業、組織において、通常業務とは切り離す形で、PMBOKによれば「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期的な業務」です。この様に通常業務と一線を画して創造されたプロダクト、サービス、所産を、何のために活用するかという上位の目的があるはずです。

 その目的は、必ずしもプロジェクトが終了した時点で達成されるものではありません。プロジェクト終了後、ある程度の期間が経ってから目的が達成されたか評価されるものが多いでしょう。

 例えば地域のプロバスケットボールチームがアリーナを建設したとして、そのアリーナを無事建設できたから目的を達成したことにはならないでしょう。そのアリーナに大勢の観客を呼び込み、収益を上げてプロチームの活動を続けていける、さらにはそのチームが強くなる効果をもたらすということが目的ではないでしょうか。

 そういった視点からプロジェクトを見ると、単にプロジェクトが計画通りの品質、納期、コストを守って終了したということが、決して最優先事項ではないということになります。

 プロジェクトが計画通りに進まず、コストが当初計画より倍に膨らんでしまったが、できあがったプロダクトにより費やしたコストの何十倍もの利益をあげることができれば、広義的にはプロジェクトは成功と言ってもよいのではないでしょうか。当初の計画に不備があったとしてもです。

 このことが意味するところは、企業や組織にとっては、プロジェクトの実行過程以上に、そのプロジェクトによって得られた所産が、結果的に企業や組織に何をもたらせてくれるか、ということがより大事だということです。

 私がプロジェクト成功の仕組みづくりに言及するとき、必ずプロジェクト実行チームの上位に位置する組織や経営層の問題に触れるのは、このためです。プロジェクトによって最終的に得られる広義的な成功とは何か、ということを深慮せずにプロジェクトを始めさせてしまう組織は、長期的には事業の発展にブレーキがかかり、組織内のメンバを不幸にするだけです。

 これは、一つのプロジェクトが死活問題に直結する小規模な企業に比べ、プロジェクトの多少の失敗が経営を揺るがすまではいかない中・大規模の企業において発生しやすいことかも知れません。特に経営幹部がローテーションする様な大きな組織では、自分が管掌している間にプロジェクトを狭義的に成功させるということが目的となってしまいかねません。

 プロジェクト・オーナーには、プロジェクトを始める前にそのプロジェクトは本当に必要なプロジェクトなのか、そのプロジェクトによって得られるものは本当に自社に投資以上の便益をもたらすのか、プロジェクトが計画通りに進まなかったときのコストオーバー許容量、日程上のデッドラインはどこにあるのか、ということを高い見地から判断したうえで冷静にGOをかけて欲しいと考えます。

 あなたの企業、組織では、プロジェクトの広義の目的を明確にしていますか。プロジェクト単体を終わらせることを優先させてしまっていませんか。

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