No.34: 横並びで満足してしまっていないか

 茹でガエルの様に目の前にある危機に気が付かず、気がついたときには挽回に相当な労力を要する、または手遅れになってしまっているという事態は誰しも避けたいものです。

その様な状況に陥ってしまう思考の一つに”横並びに満足してしまっている”ということがあります。

 現実のプロジェクトではどの様な事象として表れるでしょうか。組織内や他のプロジェクトの様子を見て、同じだから安心してしまうという状況です。例えば、プロジェクトの品質指標、工程遅延日数、予想収益率といったものが、本来得られるはずの成果に対し、他のプロジェクトや組織の平均値と変わらない結果が得られることで満足してしまうということです。

 ソフトウェアの開発における品質指標の一つとして、プログラムの単位容量あたりの欠陥を示す”バグ密度”というのがあります。このバグ密度が組織で定めた基準値の範囲内に入っているから、チームのパフォーマンスに問題はないと解釈し安心してしまうのは早計です。プログラムの欠陥にも重要度があって、上流設計で検討漏れがあったことにより引き起こされたものと、プログラムを入力するいわゆるコーディング過程でタイプミスしてしまっただけのものでは、当然前者を重要な問題と捉えなければならず、もしその様な欠陥が数多く検出されたのであれば基準値の範囲内に入っているからといって満足してよい状況ではありません。

 工程についても、他のプロジェクトが軒並み数日の遅延を発生させているのを見て、自分のプロジェクトの数日の遅れを安易に許容してしまっては、多少の遅れは当たり前という空気をプロジェクト内で共有してしまうことにもなりかねません。プロジェクトはオンスケジュールで、できれば前倒しで、余裕が余裕を生む状態で進んだ方がよいのです。

 そして予想収益率についても、組織内のプロジェクトの平均が例えば5%の収益率であるからといって、自分のプロジェクトが6%であることを持って満足してしまってはいけません。実はそのプロジェクトでは10%稼げたのかも知れないのです。そういかなかったのは、他のプロジェクトのメンバがだらだら残業を続けているのに合わせ、喫緊の仕事が無くとも一緒に残業していた結果だったのかも知れないのです。

 いずれのケースにおいても、組織や他のプロジェクトを横並びで比較して、悪くないからといって満足していては進歩がありません。プロジェクトを”比較値”で評価するのではなく、”絶対値”で評価して欲しいのです。そのためには、自分だけの尺度が必要です。組織や他のプロジェクトに合わせていては、組織の型枠以上には成長できません。プロジェクトマネージャのあなた自身にとってはそれで満足かも知れませんが、プロジェクト内のメンバにとっては長い目で見ればマイナスかも知れません。あなたがメンバの成長を摘み取ってしまっているのかも知れないのです。そのプロジェクトはプロジェクトマネージャのあなたの志以上に高みを掴むのは難しいのですから。

 プロジェクトだけでなく、組織運営についても”横並び”の弊害は起こりがちです。どこそこの組織がこうだから、うちの組織もこうしておこう、といった思考は厳に慎むべきでしょう。組織を率いる立場であるなら、企業の平均で満足しているのではなく、自分の組織を企業内で一番、あるいは日本で一番のチームにしたい、ぐらいの志で運営したいものです。

 そういった日々の成長を追いかけることを止め、他者との横並びで満足していると、危機が忍び寄っていることを見過ごし、気がついたときには腐敗が進んでいたということになりかねません。プロジェクトマネージャ、または組織を率いる皆さんは、”横並び”で満足してしまっているということはありませんか?そして、その結果配下のメンバの成長を奪ってしまっているということはないでしょうか?

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