No.35: 事なかれに陥っていないか

茹でガエルの様に目の前にある危機に気が付かず、気がついたときには挽回に相当な労力を要する、または手遅れになってしまっているという事態は誰しも避けたいものです。
その様な状況に陥ってしまう思考の一つに”事なかれ”というものがあります。
いわゆる”事なかれ主義”は、平穏無事に済んでくれさえすればよいという消極的な考え方や態度を示します。この様な考え方や態度を持つということは、軋轢、争いや喧嘩を避け、とにかく平穏を望む傾向にありますから、もしこの様な人間が組織のリーダになってしまったら、業務や組織上の課題を見つけ改善していくという活動を積極的に推進するということは期待できないでしょう。積極的に推進できないどころか、誰にでもいい顔をして一貫性を保てないことにより、むしろ自身が課題そのものになりかねません。それは組織としてたいへんなマイナスであり、その様なリーダを配置した上位者の任命責任も問われる事態です。
さて、“主義”と云えるほど性格に浸透していなくとも、私たちには日常の業務の中で思考がこの様な傾向に陥ってしまうことがあるのではないでしょうか。誰もができればトラブルは避けたいものと思いますから、トラブルが起きてほしくない、トラブルが起きても自分が対処する必要のないものであってほしい、トラブルが起きたとしても他の誰かが解決しておいてほしい、という願望が先立ち、トラブルの目をあえて見過ごしてしまうということがありえます。この様な思考に陥ることは厳に注意したいものです。
製品を使用している顧客からクレームが入りました。製品が期待した通りに動作しないことがあったという報告に対し、その不正動作が常時発生するわけではなく、ごく稀にしか発生しないということで、製品設計担当者は顧客に「しばらく様子を見てください」という様な返答をしました。そこで、製品に何か欠陥があるかも知れないと疑念を持って、調査を始めるならよいです。しかし、顧客の操作ミスだったかも知れないとか、製品に欠陥などあってほしくないという願望だけが先に立って思考停止に陥ってしまうことがないでしょうか。その様な事態は避けなければなりません。欠陥などあってほしくないという願望は持っても、念の為に調査は行なって然るべきです。ここで初動に手を抜いたために、他の顧客からも同様のクレームが入り出し、一気に大トラブルに加速していくという事態になりかねません。現に私も製品事業の責任者だったときに、早期に手を打っておけばボヤで済んだものが初動の誤りで大火事になってしまったという経験をしています。
ここまでは設計者個人の”事なかれ”思考に関するものであり、個人がこの様な考え方、態度に陥ってしまったら、上位者を含めた周囲が是正できるのであれば、実が製品に欠陥があった場合の被害の拡大は止められます。しかし、顧客からのクレームが組織内で共有されていなかったとすると、組織内の誰も設計者個人の行動を是正できません。
組織内でクレームが共有されていなかったとすると、その状況には組織のリーダの責任が問われます。組織として対応する仕組みが抜け落ちていることは第一の問題ですが、組織のリーダに、クレームなど発生しないでほしいという願望、クレームが発生しても設計者が個別に解決してほしいという願望、を伴う”事なかれ”思考が働いていたとしたら、リーダの責任に止まらずその適性が疑われます。
目の前に現れた事象は、必ず何らかの原因があっての結果です。事象が現れた現実をありのまま受け止め、そこで”事なかれ”思考に陥らず、事象の原因が何かということに目を向けることを常に心に留めたいものです。皆さんは、”何か”が起きたように見えるとき、起きないでほしいという願望に支配されず、事実を事実としてありのまま受け止めることに自信がありますか?
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