No.101: プロジェクトを止める判断

 プロジェクトが一旦走り出せば、そのままゴールに向かって最後まで走り続けて欲しいと誰もが思います。プロジェクトを始めるためには、プロジェクトオーナーまたは顧客の期待を背負い、予算を獲得し相応の人員を集め、そしてそれらのメンバをプロジェクトの予定期間中確保し続けなければなりません。そんな慣性の働いているプロジェクトを、止めた方が良いという様な事態になったとき、あなたは、そしてあなたの組織は止めるという選択肢を持ち得るでしょうか。

 プロジェクトを止めた方が良い様な事態とはどの様なものでしょうか。それは、そのまま進めれば進めるほど、ゴールから離れていってしまう状況です。

 顧客の要件を正しく捉えられないまま始めてしまい、細かい仕様の確認をしているうちに、「あれ? まだまだ明確にできていなかった要件があるぞ」と気づいた一方、設計作業に着手してしまっている。このまま進めていくと、おそらく設計したものに後で大きな手戻りが発生してしまう…。

 システム開発の検証フェーズに入ったところ、テストの初っ端から想定を上回る不具合が摘出され、このままテストを続けても不具合が見つかり続けるだけでテストの消化が進みそうにない…。

 前者の場合、一旦立ち止まって一定期間設計作業を中断し、要件定義のやり直しを行う。後者の場合、テストを一旦中断してそこまでの不具合内容を分析し、分析した結果に基づいて設計の弱い部分を見直す。この様な選択肢があって然るべきです。

 ところが、そういった選択肢をはなから視野に入れず、ただひたすら前に進もうとしてしまいがちです。それは、プロジェクトを一旦止めてしまったら、もう当初計画した通りには終わらないことが確定してしまうので、わずかな望みと根拠のない期待にすがって、前に進みながら修正しようと考えてしまうからです。

 実際は、そこで立ち止まってやり方を見直し、再スタートを切った方が、遅れを挽回して当初計画した通りの日程でゴールに到着できるかもしれません。当初の計画はキャッチアップできなくとも、少なくともプロジェクトメンバの疲弊は軽減され、正しい方向に向かうことによってポジティブな精神状態を取り戻して加速することになるでしょう。

 一旦立ち止まるという選択肢を選ぶかどうかはともかく、プロジェクトマネージャやその上位者には、その様な選択肢も検討するという冷静さが必要です。

 私も、若かった頃あるメーカの製品開発に参画しているときに、このままではプロジェクトが終わらないぞと思ったことがあります。それは、技術的なことは協力会社任せで、それを仕切らなければならないメーカ側社員にプロジェクト経験が乏しく、複数の協力会社がバラバラの方向に進んでいくのをコントロールできていなかったからです。

 機会あるごとにこのままではうまくいかないということをメーカ側のステアリングメンバにお伝えしましたが、大きな軌道修正は行われず、事態はずるずると悪化していく一方でした。

 潮の目が変わったのは、私が自社内でアラームを出して、私の会社の経営層からメーカの経営層にアクションしてもらってからです。両者の経営者が旧知の中だったということも幸いでした。しかし、それでも体制が見直されるまでは、相当な空走期間がありました。走っているプロジェクトを止めるのは、かように難しいことなのです。

 あなたは、プロジェクトの状況を冷静に観察して、必要があれば一旦止めるべき、という判断ができるでしょうか。あなたの組織は、それを許容できるでしょうか。

関連提言:No.75: 立ち止まる勇気があるか