No.117: その体制は維持できるのか

前回までプロジェクトの成果物におけるノーマルケースとワーストケースを区別するという話をさせていただきました。一方、その成果物を作り上げるプロジェクトそのものについても、必ずしもノーマルケースとして進められることばかりではありません。
例えば、プロジェクトのメンバは、計画に従って常に安定したパフォーマンスを発揮できると思い込んでいないでしょうか。メンバが毎日8時間、週5日間、あたりまえにプロジェクトに従事し、常に一定の成果を産み続けることが前提となっているとしたら、そのプロジェクトは不安定な土台の上に立っていると言わざるを得ません。
メンバには、プロジェクト以外のところから割り込みの仕事が入ってくるかもしれません。私生活の事情で稼働率が落ちるかもしれません。体調を崩す期間があるかもしれません。そんなとき、メンバが常時同じ巡航速度を維持する前提で計画していたプロジェクトは、頻繁に工程を遅らせ、それを挽回するために残業を発生させたり周囲に余分な負荷をかけ、スケジュールに追われるものとなります。コンピューターで言えば、プロセッサが100%稼働して高熱を発する状態が続く様なことです。
もちろんプロジェクトメンバ全員が集団感染等で一定期間活動停止になってしまう様な状況は非常事態であり、あらかじめ想定して手を打てるものではありませんが、決してメンバのベストパフォーマンスを前提とするのではなく、ある程度のスピードダウンを想定してプロジェクトを進めなければなりません。
そして、そういったこと以上に今回取り上げたいこととして、プロジェクトの内ではなく外から想定していないインパクトを受けることがあります。例えば、上司が組織の都合でプロジェクトの頼りにしていたメンバを他のプロジェクトや業務に引き抜いてしまうことです。
私は、まだ若かりし頃、ある顧客企業の開発現場に入り込んでプロジェクトを運営していた時に、顧客から担当スコープ拡大の依頼を受け、自社に要請して投入した優秀な人材を、上司の方針転換により1ヶ月程度で引き抜かれてしまったことがあります。
顧客への迷惑を最小限に食い止めはしましたが、その人材を維持できていたら、より業務範囲を拡大できていたところでした。自社としては、その人材を他のプロジェクトに転換させることで、より大きな利益を獲得できたのでしょう。結果がどうなったかまでは追いかけませんでしたが。
残念ながらこの様なことも起きてしまうのが、組織の枠の中で動く現場のプロジェクトの不安定なところです。
後から思えば、本来なら一つのプロジェクトを任せられるほどのこの人材を、自分のプロジェクトに本当に投入できるのか、ということに疑念を持つ必要がありました。たまたまその期間、当人が空いていたので目の前のプロジェクトにアサインしたが、その後新たな案件が発生したので、組織としては利益獲得を優先して移動させたのでしょう。
このケースではたまたま引き抜かれた影響を最小限にできましたが、最悪の場合はプロジェクトを窮地に陥れることになったかもしれません。企業が全体最適を考える場合、この様なことが起こり得るということは、現場で想定しておかなければならないのかも知れません。しかし、組織の長や経営者としては、現場に不用意なリスクを押し付けないようにする必要があります。
さて、あなたの企業、組織では、組織の論理で人を動かしてプロジェクトを窮地に陥れてしまう様な事態を発生させてしまうことはないでしょうか。その人材の移動による穴は、たまたま現場の誰かがリカバーできたことによって救われたもので、危ないギャンブルだったのではないでしょうか。そんなことがなかったか、振り返ってみてください。


